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呼吸をするきものたち

  • 2015年3月15日
  • 読了時間: 3分

尊敬する女性、志村ふくみさん。

植物から色を取り出し、糸を染め、着物を織る染織家。

大正生まれの人間国宝です。

                     「花山吹」

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“三月の、蕾がふくらみかけたその頃に、桜の樹の皮を剥ぎ、水をくぐらせるのです。ほかのどの季節の桜の樹皮からも、そのももいろは現れ出ません。桜の樹は、花を咲かせるそのために、樹全体をももいろに染め上げているのです。”

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このおはなしに出会ったのは十年も前だというのに、折に触れては思い出し、忘れることはなかった。草木染めや織物のこと、植物の不思議さに心惹かれ、志村さんのエッセーを手に取ったのは最近になってから。別の所用で行く事になっていた京都の大山崎山荘美術館で、「志村ふくみ —源泉をたどる−」という企画展が行われていることを知り、いさんで行ってまいりました。

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美術館への道すがら。

トンネルをくぐれば、咲きかけの白や薄桃の沈丁花、白木蓮のつぼみに真紅の椿、雨に濡れてつやつやと光る緑の草木が、冷たく澄んだ空気の中でいきいきしている。

此処は京都の観光地から少し離れた、とても静かなところ。一度訪れてから、すっかり好きになってしまいました。

洋館の中に一足入りこめば、着物たちは言葉もなく語りかけてくる。

志村さんなのか、織り込まれた植物たちか、はたまた蚕なのか。

一枚一枚の着物から、ひたひたとなにかが伝わってくる。

                     「光の湖」

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澄みわたる、冬の夕暮れ。

琵琶湖の遥か、雪化粧した比良の山々。

夕陽が枯れた葦原を金色に染め上げ、湖面は深い藍色に沈んでゆく。

白と金と藍の世界で、ちよう、はたり、と機(はた)を織る志村さんの姿が浮かんできます。

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“平安時代に襲色目(かさねいろめ)が発達し、紋様を必要としないほど、色自体の世界で、四季の移り変わりや、人々の心情まで表現し得たということは、その時代の人々が、草木から色を染めることを親交のように大切にしていたからです。人間を守る和霊(にぎたま)が宿るといわれる薬草から色を染め、その衣を着て、自らを守っていたのです。”                 (「一色一生」志村ふくみ著より)

不思議なことに、一分の隙のない科学繊維は、植物では染めることができないんだそう。

蚕から生まれる「なにか透明で神聖なもの」は、空気に触れることであえかな糸へと生まれ変わってゆく。

その糸は、空気をかよわして呼吸をする、生きたもの。

植物の体内から絞り出される、初々しい、聖なる色。きよらかなももいろ。

それを灰汁や鉄、石灰で媒染して取り出された数々の色は、植物の息吹が宿る、生きたもの。

生きた着物には和霊が宿り、昔も今も、着る人のたましいを守ってくれているんだろう。自然の中に置いて、景色にすっと溶け込んでゆく美しい色に出会えて、よかったと思う。

世界中の伝統の手仕事が、廃れることなくつづいてゆくように。

古来から連綿と受け継がれてきた、生きたものの心を、失くさず伝えてゆけるように。世界はまだ、わからないこと、知らないことだらけだ。

自分が「おもしろい!」と思った世界を、深く知っていく努力をしていこうと思う。


 
 
 

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